古代の醸造業者がビールを作るために酵母培養を使い始めて以来、バイオテクノロジーは未発達な形で利用されてきました。現代のバイオテクノロジーの基礎を築いたブレイクスルーは、1950年代初期にDNAの構造が発見されたことでした。この発見が最終的にどのようにしてバイオテクノロジー治療につながったかを知るには、健康と疾患におけるDNAの中心的役割について基本的な理解をすることが役立ちます。

DNAはどのような働きをするか?

DNAは、細胞の指令部ともいえる核に存在する、非常に長いらせん状の分子です。微生物であれ、鳥であれ、人間であれ、生命体を作り上げるための完全な設計図を提供します。DNAの情報は、ヌクレオチドとよばれる4つの基本的な構成要素からなるコードとして保存されています。ヌクレオチドが並ぶ順番は、単語を書いて文章や物語を作り出す文字の順番に似ています。DNAの場合、ヌクレオチドの順番によって異なる遺伝子が形成されます。それぞれの遺伝子には、特定のタンパク質に関する指示が記載されています。

いくつかの例外はありますが、生物のすべての細胞には、その生物のDNAの完全なコピーが含まれています。特定の細胞のDNAにある遺伝子は、細胞の機能や必要性に応じて、活性化(オン)または不活性化(オフ)されます。遺伝子が活性化されると、その遺伝子がもつ情報が、コードするタンパク質を作る(発現する)ために使用されます。多くの病気は、遺伝子のオン・オフが異常になることで起こります。

  • 体はどのようにしてタンパク質を作るのか?

    タンパク質の生産は、転写と翻訳を含む多段階プロセスです。転写では、特定のタンパク質をコードする元のDNAが、メッセンジャーRNA(mRNA)とよばれる分子に書き写されます。mRNAには、DNAと同様のヌクレオチドがあります。3つの連続するヌクレオチドごとにコドンとよばれる暗号を形成しており、タンパク質の構成要素である20種類のアミノ酸の1つずつにコドンが対応しています。

    翻訳中、リボソームという細胞構造物が紐状のmRNAに結合します。トランスファーRNAという他の分子が、mRNAのコドン配列に一致するアミノ酸の鎖を構築します。アミノ酸の短い鎖はペプチドとよばれます。ポリペプチドとよばれる長い鎖がタンパク質を形成します。

  • タンパク質はどのような機能を制御しているか?

    タンパク質を形成するアミノ酸同士が作用し、複雑な相互作用によって各タンパク質に固有の三次元構造が生じます。その構造によって、タンパク質がどのように機能するか、他のどの分子に影響するかが決まります。一般的なタンパク質の種類は以下の通りです。

    • 分子を合成または分解する酵素
    • 他の細胞からタンパク質を介して送られるシグナルを受け取る受容体と細胞間でメッセージを中継するシグナル伝達タンパク質
    • 疾患や外的脅威から身を守る抗体などの免疫系タンパク質
    • 細胞や器官を形作る構造タンパク質

    タンパク質が果たす機能は極めて多様であることから、タンパク質は生命にとって重要な分子です。しかし、重要なタンパク質が機能不全に陥ったり欠損したりすると、多くの場合、何らかの病気を引き起こすことになります。

  • 体はどのようにしてタンパク質を作るのか?

    細胞やDNAを操作するために、科学者は以下のような自然から取り入れたツールを使用します。

    制限酵素:

    天然に存在するこの酵素は、細菌の防衛システムとしてウイルスDNAを切り取るために使われています。DNAから特定の遺伝子を切り取るために、研究者ははさみを使うように何百種類もの特異的な制限酵素を使います

    DNAリガーゼ:

    この酵素は、自然界で切断されたDNAを修復するために使われます。また、新たな遺伝子をDNAに貼り付けるためにも使います。

    プラスミド:

    DNAの環状ユニットのことで、プラスミドに目的の遺伝子を運ぶように遺伝子操作することができます。

    バクテリオファージ(または単にファージ):

    細菌に感染するウイルスで、組換えDNAを運ぶように改変されます。