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抗体について知っておくべき10のこと(後編:6~10項目)

新型コロナウイルスの世界的流行により、抗体に対する関心が高まっています。ウイルスや細菌を撃退するのに役立つ免疫系のタンパク質である抗体を利用した医薬品は、感染症や他の疾患に対して治療効果と副作用の軽減が期待できます。アムジェンは、免疫学及び抗体デザインにおける深い専門性をもっています。抗体についてこれまで明らかになっている生物学的、科学的知見をご紹介します。

前編はこちらをご覧ください。

抗体の設計と製造
〜進化する抗体医薬品開発〜

6. 抗体による防御を促進するには2つの方法がある。

ウイルスに感染している人の中には、ウイルスと闘う抗体産生の応答が弱かったり遅すぎたりする人がいます。また、免疫系によって作られた抗体がウイルスに強固に結合しても、ウイルスを中和できない場合もあります。ヒトの自然な抗体反応を増強または強化することができる主な治療法は2つあります。

不活化されたウイルスまたはウイルス抗原をもととするワクチンは、ウイルスを認識し、将来の感染を防ぐためにウイルスに対するメモリーB細胞を産生するよう、免疫系を刺激します。ワクチンは免疫の活性を長期間維持できる可能性がありますが、防御効果が現れるまでに数週間から数カ月かかることがあります。

ウイルスを標的とする中和抗体を体外で作製し、疾患の治療または予防を目的として、患者さんまた感染リスクの高い人に注射することも可能です。治療用抗体は迅速に感染を防御することができますが、この受動免疫は、注入された抗体が自然に除去され、数週間から1カ月しか持続しません(体内で作られた抗体も最終的に除去されますが、免疫系は必要に応じてさらに多くの抗体を作ることができます)。

ワクチンはウイルス感染に対する最良の長期的解決法として期待される一方、ワクチンが広く利用可能になった後でも他の治療法が必要となる可能性があります。これは、ワクチンが生涯免疫を付与しない場合や、一部の患者さんでは部分的にしか効果がない場合があるためです。免疫力が低下したり、免疫の発達が不十分だったりした場合、抗体療法が有用な場合があります。

7. 受動免疫を提供するアプローチは進化している。

ある人の体内で作られた抗体を他人のウイルス感染症の治療に使用するには、いくつかの方法があります。最も古くて最も簡単な方法は、感染症から回復した人から血漿を採取し、同じウイルスに感染している人に投与する方法です。このアプローチは少なくとも一部の患者さんには有用ですが、欠点があります。回復期血漿は、その効力および質が著しく変化する可能性があり、回復した1人の患者さんの血漿は、最大でも数人の治療にしか使用できません。

中和抗体は、他の抗体をベースとした治療法と同じ技術を用いて、より大規模に作製することができます。この方法では、標的抗原を単離して精製し、ヒト免疫系を持たせたマウスにその抗原を注射し、マウスが産生する抗体を調べて、標的に高い親和性で結合する抗体を見つけます。これらの高親和性抗体をコードする遺伝子を、抗体工場として機能するように設計された細胞株に挿入します。

最後に、ウイルスに対して効果的な反応を示した個人から直接採取した抗体遺伝子を使用することが可能です。このような人から形質細胞メモリーB細胞を分離して調べることで、非常に強力な中和抗体を産生する遺伝子を見つけることができる可能性があります。このアプローチは、事前に多くの作業を必要とするかもしれませんが、待つ価値のある結果をもたらす可能性があります。

8. ウイルスはしばしばワクチンまたは抗体の標的を変異させる。

あらゆるウイルスを標的にする際の課題の1つは、ウイルスが静止状態ではないこと、つまり変異するということです。例えば、 SARS-CoV-2に感染したアイスランド人から採取したウイルス検体のゲノム配列解析では、アムジェンの子会社であるdeCODE Genetics社が409の変異を発見しましたが、内291は未報告でした。

抗体が機能するには形状の相補性が必要であるため、ウイルスタンパク質の形状を変化させる変異は抗体の有効性を制限する可能性があります。中和抗体を設計する際には、ウイルスがどのように変化しているかについての最新の情報が重要です。標的としているのが、突然変異を起こしにくいタンパク質やタンパク質のセグメントであることを確認する必要があるのです。世界中で進化してきたウイルス株の大部分をカバーするには、数種類の抗体のカクテルが必要になると考えられます。

ここで赤い記号で示されている重要なウイルス抗原は、特定の受容体(左)に結合することで、ウイルスがヒトの細胞に感染することを可能にします。中和抗体は、ウイルス抗原に結合し、細胞の受容体(中央)への結合能を阻害することで感染を防ぐことができます。しかし、抗原のランダムな変異は、ウイルスの細胞への感染能を変化させることなく抗体の結合を阻害する可能性があります(右)。

9. 抗体は医薬品としての性能を高めるように設計することができる。

B細胞が抗体の質を向上させる方法を進化させたように、バイオテクノロジー研究者も抗体増強ツールキットを開発しました。標的抗原に結合する抗体が同定されれば、分子工学技術者は数十年にわたる抗体の設計と開発から学んだ教訓を応用できます。

抗体の特性はその正確な三次元構造に依存し、その構造は抗体遺伝子内のDNAの塩基配列に依存します。科学者は遺伝子を改変して、例えば製造が容易な抗体を作り出すなど、構造を微調整することができます。それ以外の改変でも、体内持続性の高い抗体や、標的抗原に対する親和性を高めた抗体を誘導することもできます。Y字型の分子構造の基礎であるFc領域を変化させることで、抗体の体内分布やマクロファージのような自然免疫細胞を活性化する能力を決定することが可能になります。

10. 抗体製造は、大きな改善が進んでいる。

抗体の製造はそれ自体がサイエンスです。この役割を果たすために進化したのではない細胞を抗体工場に形質転換させることから始まります。それらのサイズと複雑性を考慮すると、抗体は細胞内機構によってのみ作製でき、特に良好に機能する細胞系としてチャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO細胞)が使用されます。CHO細胞は、完全ヒト抗体を産生するように遺伝子操作されており、その強さは我々自身のB細胞と同程度です。

アムジェンは、バイオ医薬品製造における進歩の最前線に立ち、抗体収率の高い、生産性の高い細胞株を開発し、これらの細胞を、健康でかつ高密度で生産性を維持させるプロセスを開発しています。これらの改善などにより、より柔軟で生産的なだけでなく、よりスリムで環境に優しいバイオテクノロジー製造を再設計することを可能にしています。