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アムジェンは、患者さんが関心のある分野について学べるよう、多数のリソースを用意しております。
新型コロナウィルスの世界的流行により、抗体に対する関心が高まっています。ウイルスや細菌を撃退するのに役立つ免疫系のタンパク質である抗体を利用した医薬品は、感染症や他の疾患に対して治療効果と副作用の軽減が期待できます。アムジェンは、免疫学及び抗体デザインにおける深い専門性をもっています。抗体についてこれまで明らかになっている生物学的、科学的知見をご紹介します。
抗体にはいくつかの形や大きさのものがありますが、最もよく知られているのはIgG抗体(免疫グロブリンG)として知られるY字型のタンパク質です。Yの2つの上腕のそれぞれの先端には異物(外来のタンパク質)との結合部位があります。この結合部位は、対応する異物ごとに異なる構造に変化するため可変領域と呼ばれています。免疫応答を引き起こす外来のタンパク質を抗原と言います。
Y字構造の基本はすべてのIgG抗体において共通しています。Y字の下半分に当たるFc領域と呼ばれる部分は、白血球やマクロファージなどさまざまな免疫細胞の中にあるFc受容体に結合し、抗体が認識する外部の脅威に対する攻撃を引き起こします。免疫系が活発になると、多量の抗体が作られます。ヒトの免疫B細胞は毎秒約2,000分子の抗体を分泌することができます。
錠前を開ける鍵は、その形状が錠の中のタンブラーの形状と一致している場合にのみ機能します。それと同様に、抗体は相補的な形状の抗原にしかうまく結合できません。私たちの免疫系は、生活の中で遭遇する微生物が持つそれぞれ独特な形をした膨大な数の抗原に対して、どのように抗体を産生しているのでしょうか?その答えは、私たちは、B細胞とT細胞を中心とした何兆ものリンパ球をもち、その各々が独自の形状をした受容体を備えているということです。
アムジェンのグローバル研究部門 シニア・ヴァイス・プレジデントのRay Deshaiesは次のように語っています。「これらの細胞がすべて一か所に集まっていれば、脳や肝臓と同程度の大きさの臓器を形成します。現実には、骨髄、脾臓、リンパ節などに分散して存在しており、異物を迅速に検出してそれに反応し、撃退することができます」。これらの受容体が結合可能な外来抗原に遭遇し結合すると、免疫反応が引き起こされ、最終的に抗体が産生されます。
Deshaiesは、「SARS-CoV-2の感染を例にすると、あなたの免疫系は、ウイルスの正体を事前に 「知る」ことはできません。その代わり、できるだけ多くの異なるB細胞とT細胞の受容体を産生することで、あらゆる感染に対抗しようとします。まるで考えられるすべての数字の組み合わせのくじを購入することで、当選するようなものです。信じられない気もしますが、それは合理的で、実際にそうなのです!」と述べています。
抗体の親和性は、標的の表面の抗原との相補性の尺度です。より高い親和性を有する抗体は、標的により強く結合することができ、より高いレベルの形状相補性を持ちます。
私たちの体には、自然免疫と獲得免疫という2種類の免疫防御が存在しています。自然免疫の反応の一例として傷口の周りが赤く腫脹することが挙げられます。これは感染した細胞からの侵害シグナルが血管を拡張させ、透過性を亢進させ、免疫の強化物質が創傷に到達するのを助けるためです。この異物の種類を選ばない最初の素早い反応が、獲得免疫が強力かつ標的を絞った反撃を開始するための時間を稼いでいます。
この攻撃は、樹状細胞(自然免疫の掃除機)が遭遇した外来タンパク質の断片を貪食することで始まります。「次に、樹状細胞は最も近いリンパ節に向かって移動し、細胞表面に表出させた外来タンパク質の断片を、ヘルパーT細胞に提示します。それは、まるで “私が見つけたものを見て!”とでも言うようです。数十億から数兆個の異なるヘルパーT細胞が存在するため、そのうちの1つに、提示された抗原に結合する受容体が存在する可能性があるのです」とDeshaiesは語ります。
獲得免疫は非常に強力であるため、真の外敵のみを標的とするよう、2段階の安全装置を備えています。獲得免疫反応を誘発するには、ヘルパーT細胞とB細胞が同じ外来抗原に遭遇して結合する必要があります。そうなって初めて、ヘルパーT細胞は攻撃反応を開始するよう、パートナーであるB細胞にシグナルを送ります。リミッターを解かれたB細胞は分裂を開始し、多数のクローンを形成します。クローンの中には、形質細胞と呼ばれる抗体を産生分泌する工場になるものもあれば、長期に生存し、抗原を記憶するメモリーB細胞に成熟していくものもあります。抗体反応が最適な力価に達するまでには2~3週間以上かかることがありますが、メモリーB細胞が体内にとどまることで、再感染の際には迅速に対応できるようになっています。
新型コロナウイルスのような脅威に対して最適な抗体を産生するのに時間がかかるのはなぜでしょうか?その答えの1つは、B細胞が産生する抗体はどんな抗体でもよいのではなく、最も優れた抗体を産生することが必要だからです。最大数兆個の異なるB細胞が存在するにもかかわらず、防御すべき外来タンパク質の形状は多数存在します。そのため、B細胞が活性化すればその標的抗原への適合は良好ではあるものの完全ではない可能性が高いのです。
しかし、B細胞が分裂して自身のクローンができるようになると、クローン化された細胞の遺伝子には、元の親細胞と非常に類似していますが、わずかに異なった抗体を産生する遺伝子変異が散在します。Deshaiesは次のように述べています。「T細胞のサポートを受けて増殖すると、B細胞は同じ抗体受容体の何百万もの異なる種類を作製することができます。これらの新しい受容体の多くは、元の抗原に結合しますが、その親和性は異なります。最もよく結合するものが最も活性化し、最も増殖していきます」。
この過程は親和性成熟(affinity maturation)と呼ばれ、抗体の結合強度を1000倍以上まで引き上げることができます。この強固な結合力は、抗体の優れた特長のひとつですが、成功要因はこれだけではありません。
活性化されたB細胞が分裂を開始すると、子孫細胞の多くは、元の親細胞と親和性が同等あるいは低い抗体を有することになります。一方、非常に高い親和性がある抗体を持つ細胞も少数ながら存在し、標的に最もよく結合する細胞が増殖します。
ウイルスやその他の外敵に対する抗体の有効性は、結合の強さだけでなく、どこに結合するかにも左右されます。「私たちの免疫系はそこまで知能が高いわけではなく、どんな抗体を作るかをあらかじめ正確に知っているわけでもありません。ただし、ウイルス抗原が見つかれば、それに対するどんな抗体もできる可能性があります」とDeshaiesは語ります。その結果、ウイルス上の異なるタンパク質や同じタンパク質の異なる部分に結合する数千もの抗体が生じる可能性があります。これらの抗体の中には、ウイルスを全く阻止できないものもあれば、コロナウイルスが細胞に感染する際に使用するスパイクタンパク質のような、重要なタンパク質を阻害するものもあります。細胞を感染から防御する抗体は中和抗体と呼ばれます。
感染を直接阻止しない抗体であっても、その価値はあるとDeshaiesは指摘します。「何かが抗体で覆われている場合、自然免疫系はそれがおそらく異物であると想定します。自然免疫系にはマクロファージと呼ばれる細胞があり、抗体で覆われたものを貪食して消化します。これを食作用といい、文字通り食べることを意味します」。
(左側)SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質が細胞表面のACE 2受容体に結合すると、SARS-CoV-2ウイルスは肺の細胞内に侵入できます(挿入)。スパイクタンパク質を阻害する抗体はこの結合を阻害してウイルスを中和することができます。他のSARS-CoV-2タンパク質に結合する抗体も、ウイルスを取り込んで破壊するマクロファージにシグナルを送り、感染の防御に寄与します(右側)。
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