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アムジェン株式会社による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)支援のその後

1996年に自然災害や紛争などに伴う国際的な人道支援を目的に設立された特定非営利法人ピースウィンズ・ジャパン(本部:広島県神石高原町、1999年に特定非営利法人化)。「必要な人々に、必要な支援を」を合言葉に続けられてきた支援活動は、すでに世界33か国にまで及んでいます。今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに際してもピースウィンズは国内外で各種の支援活動を行いました。アムジェン株式会社は、本年6月ピースウィンズ・ジャパンの様々な支援活動の中で、民間の中小医療機関への医療用ビニールガウン提供活動に対して700万円の寄付を行いました。あれから約半年が経過しましたが、多くの製薬企業がCOVID-19のワクチンや、治療薬の開発を行っています。しかし厚生労働省がCOVID-19を適応として承認した治療薬は1種類のみで、ワクチンはまだ承認されていません。また現在、連日過去最高の感染患者数を記録するなど、第3波が押し寄せています。そのような状況下ではありますが、私たちのCOVID-19医療支援はどのように役立てられたのかピースウィンズ・ジャパン国内事業部業務調整員の会沢裕貴さんにお話を伺いました。

■海外の災害・紛争支援から国内災害支援、そしてCOVID-19パンデミック対応へ

―ピースウィンズ・ジャパンというと、一般的には、イラクのクルド人自治区での支援活動など、海外での紛争地や大規模自然災害現場での支援活動を連想される方が多いようです。それが日本国内で活動を行うようになった経緯を教えてください。

 設立当初からしばらくは、海外に活動の拠点を置いていましたが、従来から海外での大規模なロジスティックを活用した支援能力は、日本国内で自然災害が発生した際の避難所支援などで求められる能力と同じだろうと考えていました。このため国内の自然災害発生時に支援活動を行える準備を行っていた矢先、2004年10月に新潟県中越地震が発生し、そこで初めて国内での支援活動を行うことになりました。これを契機に国内での大規模な地震や豪雨、土砂災害などでの支援活動も積極的に取り組んでいます。
 このような活動の中で国内での災害発生直後は迅速にスタッフを現地に派遣して調査を行っていますが、その経験から大規模災害時に自衛隊などが中心に行っている救助・救命活動の一部でも、ピースウィンズが活動できる余地があることに気づき始めました。そこでまず取り組んだのが災害救助犬の育成ですが、この救助・救命活動を本格化させるために2019年12月に姉妹団体の特定非営利活動法人アジアパシフィックアライアンス・ジャパン、公益社団法人Civic Forceと共同で大規模災害の被災地で医療を軸とした救助・救命活動を行う災害緊急プロジェクト「ARROWS(空飛ぶ捜索医療団)」もスタートさせたばかりです。

―医療にかかわる活動は始動したばかりということですが、その意味では今回のCOVID-19という新規感染症パンデミックで支援活動を行うことはかなりハードルが高かったのではないですか?

 そもそも私たちは従来から国際人道支援を積極的に行ってきたこともあって、中国でCOVID-19のパンデミック発生時、情報収集などのために1月末にARROWSのスタッフを現地に派遣しました。その結果、現地の一部医療機関ではマスク不足が深刻との情報が入り、国際際医療福祉機構(IHWI)を通じて私たちが災害支援用に備蓄していた50万枚超のマスクを現地に寄贈しました。
 そうこうするうちに同時期に日本国内でも徐々に感染者が増加してきました。ARROWSが提供を目指していた災害医療とCOVID-19のパンデミックで求められる医療支援は本質的に異なることは明らかでした。私たちに感染症対策に知見があるわけでもありませんでしたが、未曽有の事態となっている現実を前に何もしないことには違和感がありました。そこでメンバー内で話し合った結果、できる支援があるならば実行に移そうとの方向性で一致しました。
 そしてこの頃、国内でも医療機関でのマスク不足が顕在化し、中国への提供後も備蓄用のマスク約17万枚が残っていたことから、これらを全国の医療機関に公募方式で提供しました。公募方式を採用するのは、平等性の担保のためです。
 その後、国内では新たな調達も加えながら東京都医師会を通じた都内の医療機関、各地の保育園・学童保育施設、新生児特定集中治療室(NICU)、医療的ケア児者家庭などにもマスク提供の支援を広げ、中国への提供と合わせて6月末までに提供総数は150万枚以上にも達しました。そしてこれをきっかけに新たなニーズも見えてきました。

■マスクから発熱トリアージ・ポスト資器材、医療用ガウンまで支援が拡大

―新たなニーズとは具体的にどのようなものだったのでしょうか?

 私たちは国内の自然災害での支援活動に関連し、いくつかの医療機関と災害時連携協定を締結しているのですが、3月に入ってそのうちの1か所から「発熱患者を診察するためのトリアージ・ポストのようなものを敷地内に設置したいのだが、何とかならないだろうか?」という相談が舞い込んできました。そこでそうした用途にも使えそうで、私たちが災害用に備蓄してきた屋外で使えるトレーラーや大型テントを貸出しました。

―今回、アムジェンではピースウィンズが行う民間医療機関への医療用ビニールガウンの提供活動に対して寄付をさせていただきました。この活動はどのような形で医療現場まで着いたのでしょう?

 当初、物資提供支援の中心はマスクでしたが、5月のゴールデン・ウィーク明けぐらいには、マスクの流通状況も改善し、他の支援団体での提供支援が増加したことなどもあり、マスクは充足の兆しが見えていると判断しました。その一方で、感染防止対策用の個人防護具(PPE)の一つである医療用ガウンが極めて不足している状況が分かってきました。
 実は従来一般的だった医療用ガウンの原料はマスクと同じ不織布。ところが世界的なマスク需要の増加で不織布の多くがマスク用として確保された結果、ガウン用の不織布が不足し、ガウン製造量が大幅に減少しました。
 これに加え、市場にある数少ない医療用ガウンが流通しない問題も発生していました。まず、原料不足で不織布の価格が高騰し、何とか製造にこぎつけた医療用ガウンも価格がかなり上昇していました。そこに追い打ちをかけたのが、医療用ガウンを取り扱っていた商社による買い控えです。その理由は従来と同じ医療用ガウンを高騰した価格で既存の顧客に販売すれば、それによる信用低下を招く可能性があるからです。結果として医療用ガウンの流通量も激減に陥る悪循環が発生しました。
 そこで流通が正常化するまで私たちが医療用ガウンを提供する支援を行うという新たな支援に行き着きました。同時にこの支援を開始した背景には私たちが独自に行ったアンケート調査で医療機関の経営悪化が浮き彫りになったことも影響しています。

■約500医療機関に医療用ガウンを提供

―独自に行ったアンケートの概要とその結果について教えてください。

 アンケートは6月上旬に東京都内の診療所481施設を対象に行いました。回答では前年同時期と比べた受診患者数は、「20~30%程度減った」が46.6%、「半分程度減った」が36.0%、収益では「20~30%程度減った」が49.0%、「半分程度減った」が34.0%と医療機関の苦境が顕著に表れています。
 また、5月末時点でのPPEの在庫状況についても調査しましたが、N95マスクでは61.7%、医療用マスクでは18.1%、医療用ガウンでは61.7%、フェイスシールドでは37.0%の医療機関が在庫が全くないと回答し、半数以上が「価格高騰は承知の上で購入」と回答していました。
 この時期に医療機関が発熱患者に対応する場合、ディスポーザブルな医療用ガウンがあるだけで医師も看護師も安心感が得られますし、経営苦境下では逐次必要物資を提供することによる経営のバックアップも重要な支援と判断したのです。

―とはいえ、医療用ガウンの絶対量も流通量も大幅に減少している中では、支援のための調達そのものが困難だったろうと思います。

 今回のCOVID-19パンデミックに際して私たちが最初に中国へ大量のマスクを提供したことをお話ししましたが、実はこれをきっかけに私たちの活動に共鳴してくれたある中国系商社と関係が構築されました。そして私たちの医療用ガウンの提供支援の構想に応じて、この商社がわざわざ定款を変更してまで医療用ガウンの確保と輸入に動いてくれたことが活動の後押しになりました。

―医療用ガウンの提供支援活動の詳細を教えてください。

 医療用ビニールガウンの提供は主に2つのルートから行われました。1つはNGO、経済界、日本政府が共同で設立し、ピースウィンズ・ジャパンも加盟団体である特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォームの助成事業として、東京都社会福祉協議会を通じて特別養護老人ホームに提供したもの、もう1つは企業からの寄付を基に国や地方自治体の支援が届きにくい民間の中小医療機関へ提供したものです。アムジェンからの寄付は後者の支援活動に使われました。
 同様の企業の寄付で購入された医療用ガウンは最終的に総数8万8000枚に上りました。これらも最初に国内でマスク支援を行った時と同じように提供を望む医療機関を公募し、これに応募してこられた全国の約500医療機関にお届けしました。
 現在、医療用ガウンの提供は終了しており、今後も継続して、その時々の状況に応じて適宜支援内容を考えていく予定です。

―貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。今後も私たちは、「To Serve Patients - 患者さんのために、今できるすべてを」という使命を果たせるよう活動していきたいと思います。