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エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の『高まる二次予防の重要性:アジアにおける心血管疾患医療の現状・課題』がこのほど公表されました。アムジェンの協賛を受けて制作された本報告書は『The Cost of Silence: Cardiovascular Disease in Asia 』(2018)に続くシリーズ第2弾です。アジアの専門家15名に詳細な聞き取り調査を実施し、心血管疾患(cardiovascular disease = CVD)の二次予防に関するスコアカードを作成。CVDの二次予防がアジア太平洋地域内8カ国(日本・オーストラリア・中国・香港・シンガポール・韓国・台湾・タイ)の医療体制にもたらす負担と、政策的対応について分析評価を行いました。今回は、10回シリーズの第6回目として、「CVDの二次予防とアジアにおける課題(1)ケアの質向上に向けた取り組み/CVD二次予防モデル」について、ご紹介します。
ケアの質向上に向けた取り組み
心血管疾患(CVD)は代表的な非感染性疾患(NCD = non-communicable disease)の1つであり、CVDの予防体制の特性・質にはNCDのそれとの一定の相関関係が見られます1。今回の調査対象となった全ての国はNCD対策、あるいはCVDに特化した対策を打ち出しています。2015年まで総合的なNCD対策を進めていたオーストラリアでは、2017年に保健省が『慢性疾患戦略的フレームワーク(National Strategic Framework for Chronic Conditions)』を設立。CVDをはじめとする慢性疾患を対象に、負担軽減に向けた政策・戦略・アクション・サービスのガイドラインを提供しています。CVD対策はNCD向けプログラムの一環として実施されることも多く、包括性の面で問題を抱えがちです。しかしオーストラリア・韓国では、二次予防も対象に入れた先進的プログラムの整備が進んでいます。
WHOが2017年に公開したデータによると、中国もCVD向けの政策を打ち出しています。香港・日本・シンガポール・台湾・タイも国レベルの計画を実施していますが、内容が過去5年間更新されていない、二次予防や心臓・脳卒中リハビリテーションが対象に含まれていない、あるいは脳卒中・心筋梗塞に特化したプログラムが存在しないといった課題が見られます。
台湾のCVD戦略はマクロレベルの目標を掲げていますが、詳細は、現時点では明確ではありません。香港の場合はNCD対策の一環として、薬物療法・カウンセリングを通じた心筋梗塞・脳卒中の予防戦略が謳われています。一方、日本では新たな取り組みが見られます。順天堂大学 名誉教授の代田浩之氏は、2019年末に「心筋梗塞・脳卒中の治療体制支援に向けた脳卒中・循環器病対策基本法が施行されました。また、脳卒中患者向けの集中ケア体制強化や心不全患者(特に高齢者)向けの治療体制整備を含む、新たな患者ケア・予防医療戦略も策定される予定です」と話しています。
今回の調査で取材した専門家は、CVD対策のメリットを強調しています。「包括的プログラムの実施は、(一次・二次リスクの軽減・防止という意味で)政府・コミュニティ双方にとって有益です」と指摘するのはKhan氏。政策のあり方は医療ニーズ・制度の特性によって様々ですが、長年取り組みを行う国々では各疾患に特化した戦略が主流となっています。がん対策の例を見ても、より優れた効果が期待できると考えられます2。
今回の聞き取り調査では、一次・二次予防戦略に多くの共通点があることが指摘されています。治療・投薬管理という面では異なるものの、生活習慣面での取り組みはほぼ同じです。健康的な食習慣、アルコール過剰摂取の防止、運動推進といった政策が国レベルで実施されています。一方、様々な業界が関与するタバコ対策については、必ずしも徹底できていません。全ての対象国は『タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約』(WHO Framework Convention on Tobacco Control[FCTC])を批准しており、オーストラリア・香港・日本・台湾では独自の規制も施行されていますが、依然として課題は多く残されています3。
また減少傾向にある喫煙率とは対照的に、日本を除く全ての国で肥満率が増加しています(2005〜15年の結果)4。こうした傾向を見ても、長期間にわたる生活習慣の改善が依然として課題であることは明らかです。
アジア太平洋地域におけるCVD二次予防モデル
アジア諸国は、既存の医療制度の中で有効に機能する仕組みを模索し、様々な診療モデルを導入してきました。その一例が、冠動脈性心疾患患者向けの慢性疾患管理を対象としたオーストラリアの総合診療プログラムです。このプログラムは初期評価と3カ月ごとの再評価によって構成され、疾病レジストリとケア・効果に応じた経済的インセンティブを活用しながら、薬物療法・生活習慣改善施策の最適化を目指すものです。費用対効果分析でも「効果が高く、実質的かつ持続可能なメリットをもたらす」ことが証明されています5。また同国では2019年、診療モデルのランダム化比較試験が実施されました。これは脳卒中患者を対象とするもので、再発防止に向けた血管リスク因子管理に特化しています。同試験の結果によると、ICARUSS(Integrated Care for the Reduction of Secondary Stroke)と呼ばれるモデルは、「既存リスク因子や行動・機能面のアウトカムという面で従来型ケアより優れた効果を発揮した」としています6。
韓国が2008〜11年に実施した地域包括脳卒中センター(Regional Comprehensive Stroke Centre = CSC)プログラムも、脳卒中の集中治療に大きな効果をもたらしました。2014年に行われた成果指標分析によると、経静脈血栓溶解療法の“来院―治療開始時間”(door- to-needle time = DNT)や脳血管内治療時間の短縮が認められました。ただし、“発症―治療開始時間”(onset-to-needle time = ONT)は20時間から24時間へと増加しており、継続的な脳卒中研修プログラムの必要性が浮き彫りとなっています。CSCプログラムの第2フェーズ(2014〜18年)では、新たに2つの地域CSCと一次脳卒中センター(primary stroke centre = PSC)が設立され、連携ネットワークが拡充されました7。こうしたネットワークの存在は、脳卒中センターに登録された患者の特定や二次予防プログラム(例:生活習慣改善プログラム)への参加促進につながる可能性が高いと言えます8。
台湾では、129の地域医療機関を対象とした集中治療後脳血管障害プログラム(Post-Acute Care Cerobrovascular Disease = PAC-CVD)が2014年に設立されています。参加経験が2年以上の患者6000人を対象とした管理下臨床試験の結果によると、PAC-CVDを通じた集中院内リハビリテーションの実施により、機能的アウトカムの向上・再入院の減少・死亡率の低下といった効果が見られました9。一方、WHOは低・中所得国を対象とした様々なプログラムを立ち上げ、地域医療サービスを通じた国レベルの二次予防推進を後押ししています。
例えばWHO東南アジア地域事務所(SEARO)は、インドネシア・ネパール・タイなどを対象に、地域プライマリケアを通じたCVD管理プログラムを実施10。また『Global CVD Atlas 報告書』の2011年版では、低・中所得国でも実現可能なコスト効果の高いCVD予防管理政策・戦略・介入のリストを紹介しています11。タバコ・アルコール過剰摂取・不健康な食生活など、生活習慣リスクの改善に向けた公衆衛生戦略はその一例です。「アスピリン・β遮断薬・ACE阻害薬・脂質低下薬」の活用など、個人レベルの二次予防を組み合わせることで、血管障害の再発率を最大で75%軽減できるとしています12。
REFERENCE:
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の『高まる二次予防の重要性:アジアにおける心血管疾患医療の現状・課題』の全編はこちらからご覧ください。