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創薬(ドラッグデザイン)の大転換

数十年の間、創薬(ドラッグデザイン)を支配していたパラダイムが、生物学の力を活用した多重特異性薬剤の新しい時代に道を譲ろうとしている。 By Ray Deshaies


編集者より
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、私たちの働き方を変えてしまいました。しかし、科学論文の執筆・公表を通じて、サイエンスとイノベーションを共有するゴールを目指す動きは継続しています。そこには、科学ジャーナル『Nature』に発表されたRay Deshaies博士の重要で新しい論文「多特異性薬物は、バイオ製薬の革新の新時代を伝える」も含まれています。このアムジェンからのニュース記事でRay博士は、科学者たちががんや心血管疾患、炎症性疾患など重篤な病気に対する画期的研究を安全に再開することができた時に、私たちが期待できる刺激的な研究開発について述べています。

20世紀初頭のアスピリンの開発を皮切りに、創薬のイノベーションには、これまで3つの大きなイノベーションの波がありました。私たちは今、薬物の作用様式を根本的に変化させ、これまで薬剤開発が不可能と考えられていた数千の標的に対し新しい治療への道を拓く、第4の波の始まりの中にいます。

新しく沸き起こったパラダイムシフトの驚くべき可能性を評価するために、最初の3つの波と、それが現代の医薬品に与えたインパクトを紹介します。第1の波はアスピリンの登場で始まり、生物学的作用は未知ではあるものの化学構造がきわめて明確な医薬品の登場をもたらしました。効果はありましたが、なぜ効くのかはわからなかったのです。1970年代に第2の波が打ち寄せ、合理的な創薬を導入しました。それは、疾患において役割を持つ特異的な分子標的を目的とした特異的な化合物でした。薬剤の開発者たちは、いずれ薬剤の働きだけでなく、どのように効果を発揮するのかを知ることになりました。1980年代、バイオテクノロジー革命という第3の波がやってきます。遺伝子組み換えDNAという技術により、化学的化合物を超え、生物学を支配する蛋白質や他の巨大分子を元に薬物を設計することが可能になりました。

こうしたイノベーションは、多くの形で変革をもたらしましたが、薬物がどのように作用するかという我々の基本的な考え方を実際に変えることはありませんでした。アスピリンの時代にまで遡ると、承認されたほとんどの薬剤において、薬物である一つの分子と、その標的であるもう一つの分子が存在します。薬物は、標的の通常作用を変化させる様式で、標的に結合します。薬物は、それ自身で活性を上げたり下げたり(ほとんどの場合は下げる)する困難な働きを行います。端的に言えば、それが創薬(ドラッグデザイン)です。概念的にそれほど難しいことではありません。

未来の医薬品は、従来の医薬品とは相当異なる機能を持つでしょう。バイオ医薬品業界のパイプラインには、二つ以上の蛋白を結合させることのできる多重特異性薬剤を非常に多く見ることができます。それらの薬物に中には、分子の仲介者として機能する、高度に洗練された構造を持つものがいくつかあります。薬物がそれ自身のみで標的に結合するのではなく、生物学的メカニズムを動員して、重要な働きをします。標的を近接させることと、それらのメカニズムにより、多重特異性薬剤は生物の持つ素晴らしい力を引き出し、従来の医薬品を遥かに上回る働きをします。これは創薬の緩やかな改良ではなく、大転換と言えます。

リサイクルステッカーの分子版
自然には、細胞の蛋白質処理システムを指揮できる巧妙なウイルスなど、誘導された近接が実際にはどのようなものかを示す良い例があります。細胞が蛋白質を除去しようとするとき、特異的な酵素を使い、分子版のリサイクルステッカーであるユビキチンで蛋白質にタグ付けをします。ユビキチンでタグ付けされた蛋白質が、プロテアソームと呼ばれる細胞内マシンに遭遇すると、プロテアソーム内に引き込まれ、細かい断片に切り刻まれます。いくつかのウイルスは、ユビキチンのタグ付けをする酵素にリンクする蛋白質を作成することで、細胞の抗ウイルス蛋白を阻害することを学習しています。基本的に、彼らは細胞を欺き、防御を回避します。

これと同じトリックを行う薬物をPROTAC®(タンパク質分解誘導キメラ蛋白)分子と呼びます。成功したがん治療薬であるレナリドミド(lenalidomide)を含むいくつかの薬剤は、承認後市場に出てから初めて、その作用機序が見いだされています。現在、類似する分子の研究に投資する企業がいくつかあります。潜在的な治療がもたらす大きな利点に惹かれているのです。

まず、従来の薬物は標的と結合している間だけ、機能を発揮します。結合のグリップを失った途端、標的は病気を引き起こす元の状態に戻ってしまいます。PROTAC分子は、一度の遭遇で標的の不可逆的な破壊を引き起こすため、標的との結合を維持する必要がありません。さらに、ただ一つの分子で、複数の標的分子を順番に取り出すことができます。細胞が標的分子をより多く産生するまで標的は存在しないため、時間がかかり、その効果はさらに持続します。もっと重要なことに、これら近接を誘導する薬物は、現在の薬物が標的の幅を狭めている大きな制限を克服することが可能です。

鍵が機能するためには錠が必要なように、従来の薬物には、標的分子の活性に必須の結合ポケットで、標的と結合する必要がありました。薬物がはまり込む機能的なポケットを欠く蛋白質は、薬剤開発が不可能と考えられており、ヒト蛋白質の約85%がこのカテゴリーに分類されています。しかし、PROTAC分子の効果は分子を集合させる酵素に由来するため、その有用性は機能的なポケットを持つ15%の蛋白質のみに制限されません。錠に鍵を差し込む代わりに、協同する酵素がその働きを行うことのできるどのような結合部位をも活用することができます。

無限の可能性

PROTAC分子は、私たちが設計できる仲介者分子の氷山の一角にすぎません。生物学において、誘導された近接には、数えきれないメカニズムが働いています。ドラッグハンターたちがこのアプローチを利用し、病気の治療を試みる方法は数限りなくあるのです。

  • すでに、先にLYTAC分子の説明でみていますが、これは、血液中の標的を、細胞が不要な蛋白質を捕捉してリサイクルするために用いられるレセプターとリンクさせることができます。
  • 標的は蛋白質である必要はありません。細胞はDNAの情報を蛋白質に変換する核酸であるRNAが不要になったとき、不要なRNAを排除する特化した仕組みを持っています。”RIBOTAC”分子は、疾患に関連した蛋白質にリンクした配列を持つ特異的なRNAを排除することができます。
  • 私たちはまた、”AUTAC”分子を設計することもできます。細胞が不要になった粘着性蛋白質の塊や損傷を受けた細胞内小器官などの塊を食い尽くすのに使う、オートファジー(文字通り「自己貪食」)と呼ばれるプロセスを利用するのです。

新しいコンビネーションや新しい生物学を生み出す可能性は無限です。私たちを制限するのは、自分たちの技術力、ビジョン、創造性だけなのです。

アムジェンにおいては、2019年にNuevolution、現在のアムジェン・リサーチ・コペンハーゲンを買収し、キーとなる技術的ニーズに対応しました。ここにいる科学者たちは、DNA暗号のライブラリーの構築における世界的なリーダーです。彼らの技術により、数億もの化合物の膨大な混合物から、タグを付けたDNAを利用し個々の化合物をバーコード化します。コペンハーゲンのチームは、40兆もの固有な化合物を集合的に保持するライブラリーを構築しました。この膨大なコレクションは、高いところにぶら下がっている果実、多重特異性分子を用いる薬物標的に手が届くために必要な、一億に一つの化合物を見つけるために役立ちます。

アムジェンが将来性の高いプラットフォーム技術を構築しようとするのは初めてではありません。2012年に、二重特異性T細胞エンゲージャー、BiTE分子として知られる新しいタイプの治療法を開拓したMicromet社を買収しました。これらの分子は、細胞レベルで近接を誘導するように働きます。T細胞を腫瘍細胞に接近させ、最初の結合で腫瘍細胞を認識し、次の結合で破壊します。買収から8年後、一種類のBiTE治療が承認されており、つづくBiTE治療は7種類のがんをターゲットに臨床試験中です。3世代目、4世代目、5世代目のBiTE分子の構造が設計段階にあります。数十年先、小分子化合物でも誘導近接プラットフォームによって、同じように進歩できることを望んでいます。

この取り組みの緊急性は、ヒト遺伝学やその関連データから生み出された多くの発見によって強調されています。これらのテクノロジーは、病気を引き起こす多くの遺伝子や蛋白質が、従来のどんな薬剤も治療対象とはできなかった標的にリンクしていることを明らかにしています。多重特異性分子は、薬剤化可能な蛋白質の領域を、15%からほぼ100%へと拡張する可能性を持っています。この新しいイノベーションの波は、より多くの病気が治療可能になり、治癒さえできる日を思い浮かべることを可能にしてくれます。

将来予想に関する記述(アムジェン社)
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